総務省が老朽化した単独処理浄化槽の取り替えに対して、環境省に基準を明確にするよう勧告しました。
そのまま放置すれば生活環境の保全及び公衆衛生上重大な支障が生ずるおそれのある状態にあると認められる単独処理浄化槽(特定既存単独処理浄化槽)の判断基準についてです。
はじめに
浄化槽には、単独処理浄化槽と合併処理浄化槽があります。
微生物の働きを利用して汚水を処理するのは変わりませんが、トイレの排水のみを受けて処理するのが「単独処理浄化槽」、トイレだけでなく、キッチン・洗濯機・洗面化粧台・浴室等の排水も受けて処理するのが「合併処理浄化槽」です。
平成13年4月1日施行の改正浄化槽法により、浄化槽を設置する場合には、原則として合併処理浄化槽の設置が義務づけられ、単独処理浄化槽は新設することができなくなりました。
ただ、平成13年4月1日施行の改正浄化槽法では、「既存の単独処理浄化槽については、下水道の予定処理区域にあるものは、下水道につなげる工事をするまで、そのまま使ってもいいですが、下水道の予定処理区域ではない時は、合併処理浄化槽への設置替えに努めてください」という話でした。
平成30年度末において、設置されている全浄化槽の半分がまだ単独処理浄化槽であり、単独処理浄化槽の法定検査の受検率が25.6%と低い水準にあったため、環境負荷の低い合併処理浄化槽への入れ替えを促したい国は、再度、浄化槽法の改正を行いました。
令和2年4月1日に施行された改正浄化槽法により、「そのまま放置すれば生活環境の保全及び公衆衛生上重大な支障が生ずるおそれのある状態にあると認められる単独処理浄化槽(特定既存単独処理浄化槽)の浄化槽管理者に対し、都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあっては、市町又は区長とする)は、除却その他生活環境の保全及び公衆衛生上必要な措置をとるよう助言又は指導、勧告、命令をすることができる」ことになりました。
しかし、総務省行政評価局が12の都道府県、22の市町村に調査を行ったところ令和3年度の時点で、特定既存単独処理浄化槽の判定・措置を実施していたのは、3の都道府県と1の市町村だけでした。
調査の結果、環境省が令和2年3月に定めた「特定既存単独処理浄化槽に対する措置に関する指針」の基準が抽象的で、数値を具体的に示してほしいとの声が多く見られたため、総務省行政評価局は、環境省に対し、測定可能な定量的な基準を設けるように勧告しました。
報道によると、環境省は、「勧告を踏まえて検討し、必要な措置を講じたい」としています。
令和6年2月、総務省行政評価局の出した「浄化槽行政に関する調査 結果報告書」を参照し、調査の内容をご説明します。
調査概要
単独処理浄化槽は、令和3年度末において、今なお浄化槽設置基数全体の約半数(357万基/753万基)を占めています。
※単独処理浄化槽の設置基数につきましては、ブログ「令和3年度における合併処理・単独処理・高度処理型浄化槽の設置状況」の中で、ご説明しています。
これらの単独処理浄化槽のうち、特に、周辺の生活環境の保全等の面で影響のある単独処理浄化槽について、合併処理浄化槽への転換等を一層進めるため、令和元年6月に浄化槽法が改正され、令和2年4月に施行されました。
以下の制度等が新たに導入されました。
①都道府県、保健所設置市及び特別区による生活環境の保全等に重大な支障が生じるおそれのある単独処理浄化槽(特定既存単独処理浄化槽)の判定とその除去を求めるための助言、指導、勧告及び命令。
②浄化槽台帳の作成。
③都道府県や市町村による浄化槽の管理等に関し、関係者間で必要な協議を行う協議会(法定協議会)の設置。
※「特別区」とは、日本の都市部に該当する地域を指します。具体的には、東京23区や八王子市、町田市等が該当します。
※「特定既存単独処理浄化槽」につきましては、ブログ「単独処理浄化槽はいつまで使えるのか?」の中でも、ご説明しています。
また、浄化槽法一部改正法施行を踏まえ、環境省は、都道府県、保健所設置市及び特別区におけるこれらの規定の円滑な運用等に資するため、特定既存単独処理浄化槽に対する措置に関する指針や浄化槽台帳の整備導入マニュアルの他、浄化槽整備の取組事例集等を作成しました。
※「都道府県、保健所設置市及び特別区」については、以下「都道府県等」と表します。
※「公共浄化槽整備・運営マニュアル」につきましては、ブログ「令和5年度公共浄化槽整備・運営について」、そして「令和5年度公共浄化槽の経営のあり方」の中で、ご説明しています。
しかし、老朽化が進み、不適正と判定される単独処理浄化槽が年々増加する中、都道府県等では、このような単独処理浄化槽について、特定既存単独処理浄化槽への判定が進んでおらず、上記制度が十分に活用されていない状況がみられます。
※破損又は変形、漏水状態にある単独処理浄化槽が、平成26年度には5,102件であったものが、令和3年度には7,154件と約4割増となっています。
調査目的・対象機関
総務省行政評価局が作成した「浄化槽行政に関する調査 結果報告書」の「目的」「対象機関」は下記のようになっています。
①目的
この調査は、生活環境の保全等に重大な支障が生じるおそれのある単独処理浄化槽(特定既存単独処理浄化槽)への措置を確実に行い、水質保全や悪臭等の防止を図るため、国、都道府県等における特定既存単独処理浄化槽に対する取組状況や浄化槽台帳の活用状況の他、これらに対する課題等を明らかにし、関係行政の改善に資するために実施するものです。
②対象機関
◦調査対象機関
環境省、農林水産省、国土交通省
◦関連調査等対象機関
都道府県(12)、市町村(22)、関係団体等(29)
(注)
・市町村(22)とは、保健所設置市(17)と地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の17の2の規定に基づき、都道府県の事務及び権限を移譲された市町村(5)である。
・関係団体等(29)とは、指定検査機関(14)、保守点検・清掃業者(14)、民間団体(1)である。
・上記の他、総務省は、鹿児島県及び公益財団法人鹿児島県環境保全協会に参考意見聴取を行った。
③担当部局
行政評価局
管区行政評価局(東北、関東、中部、近畿、中国四国、九州)
四国行政評価局
④実施時期
令和4年12月~令和6年2月
調査結果
全体概況
調査の視点と調査対象とした単独処理浄化槽の全体像
1.本調査の視点
令和元年6月の浄化槽法一部改正(令和2年4月施行)により、特定既存単独処理浄化槽に対する措置が新たに定められ、同法附則第11条の規定に基づき、都道府県等は、そのまま放置すれば生活環境の保全や公衆衛生上重大な支障が生じるおそれのある単独処理浄化槽を特定既存単独処理浄化槽と判定し、当該特定既存単独処理浄化槽の浄化槽管理者に対し、除去等の措置に係る助言又は指導、勧告、命令ができることとされました。
しかしながら、都道府県等における特定既存単独処理浄化槽の判定、措置の実施は、令和2年度は鹿児島県のみ、令和3年度は鹿児島県他3都道府県等にとどまる等、当該制度が十分に活用されていない状況がうかがわれます。(表3)
表3 都道府県等における特定既存単独処理浄化槽の判定・措置の実施状況
(注)
「浄化槽の指導普及に関する調査結果」(環境省)及び総務省の調査結果に基づき総務省行政評価局が作成した。
2.調査対象とした単独処理浄化槽の全体像
調査対象とした都道府県は、令和2年度における11条検査の結果、浄化槽本体が破損又は変形、漏水している状態で不適正とされた単独処理浄化槽が多いことや、特定の地域に偏りが生じないこと等を考慮した上で12か所選定されました。
また、調査対象とした市町村は、調査対象とした都道府県に存する市町村から、令和2年度における11条検査の結果、浄化槽本体が破損又は変形、漏水している状態で不適正とされた単独処理浄化槽が多いことを考慮し、保健所設置市と都道府県の事務及び権限を移譲された市町村を合わせて、1都道府県当たり最大3か所選定されました。
都道府県、市町村を「自治体」と表し、調査対象とした12都道府県、22市町村を「34自治体」と表現します。
※「11条検査」とは、浄化槽法第11条第1項に定める指定検査機関の行う水質に関する検査のことをいいます。
環境省では、浄化槽本体が破損又は変形、漏水している状態にある単独処理浄化槽は、基本的に特定既存単独処理浄化槽に判定され得るとしています。
この調査としては、都道府県等における、
①都道府県等が浄化槽台帳によりその存在を把握し、かつ、11条検査の受検によりその状態を把握しているもの。
②都道府県等が浄化槽台帳によりその存在を把握しているが、11条検査が未受検であり、その状態を把握していないもの。
③浄化槽台帳に掲載されておらず、都道府県等がその存在や状態を把握していないもの。
を区分し、上記調査対象である34自治体から、特定既存単独処理浄化槽に該当する可能性のある浄化槽本体が破損又は変形、漏水している状態にある事例を抽出し、どのようにすれば特定既存単独処理浄化槽の判定・措置が進むのか整理・分析が行われました。(表4)
表4 調査対象とした34自治体における単独処理浄化槽の内訳(令和3年度)
(注)
1.総務省の調査結果に基づき総務省行政評価局が作成した。
2.浄化槽台帳未掲載単独槽とは、当該自治体の浄化槽台帳に掲載されていない単独処理浄化槽である。
総務省が調査対象とした34自治体では、当該自治体の浄化槽台帳に掲載されておらず、令和元年度から令和3年度(一部令和4年度を含む)までの間に新たに把握された単独処理浄化槽が1,962基みられた。
3.浄化槽台帳未掲載単独槽が多い自治体(No.6、22、25)は、その理由について、
①廃止扱いとなっている単独処理浄化槽の使用が確認されたため。
②指定検査機関による11条検査において、建物敷地内に設置届が行われていない単独処理浄化槽が発見されたため。
③浄化槽台帳の情報と保守点検業者が保有する情報の突合で単独処理浄化槽が発見されたため。
等を挙げている。
特定既存単独処理浄化槽に対する取組状況
表5 特定既存単独処理浄化槽の浄化槽管理者に対する措置
措置の概要 |
都道府県等は、特定既存単独処理浄化槽の浄化槽管理者に対し、 ①当該特定既存単独処理浄化槽に関し、除去等必要な措置をとるよう助言又は指導する ことができる。 ②なお、当該特定既存単独処理浄化槽の状態が改善されないと認める時は、当該助言又 は指導を受けた者に対し、相当の期限を定めて、除去等必要な措置をとることを勧告す ることができる。 ③勧告を受けた者が正当な理由がなくて、その勧告に係る措置をとらなかった場合にお いて、特に必要があると認める時は、その者に対し、相当の期限を決めて、その勧告に 係る措置を命ずることができる。 ④当該命令に違反した者は、30万円以下の罰金に処する。 |
このため、環境省が浄化槽法施行規則第2項の規定に基づき定めた「特定既存単独処理浄化槽に対する措置に関する指針」(令和2年3月2日付け環循適発第2003027号環境大臣決定)において、都道府県等はこれらの措置については、強い公権力の行使を伴う行為が含まれることから、その措置に係る手続きについての透明性及び適正性の確保が求められるとしています。
指針においては、特定既存単独処理浄化槽の判定の参考となる考え方及び特定既存単独処理浄化槽に対する措置に係る手続きについて、参考となる一般的な考え方を示しています。
環境省は、これを踏まえ、都道府県等においては、地域の実情を反映しつつ、適宜固有の判断基準を定めること等により、特定既存単独処理浄化槽に対応することが適当であるとしています。
指針で示されている特定既存単独処理浄化槽の判定・措置の参考となる考え方において、特定既存単独処理浄化槽を判定する際は、「1.重要項目」又は「2.その他の項目」に掲げる状態(将来そのような状態になることが予見される場合も含む)に該当、かつ、「3.周辺環境への影響」に該当するか否かにより判定することとされています。(表6)
表6 特定既存単独処理浄化槽の判定の参考となる考え方
調査結果
調査対象とした34自治体において、令和3年度における11条検査の結果、浄化槽の設置及び維持管理に関し、不適正と判断された単独処理浄化槽(24,651基)から、特定既存単独処理浄化槽と判定し得る可能性が高いと考えられる単独処理浄化槽114事例(2か年以上にわたって、浄化槽本体が破損又は変形、漏水している状態にあるもの)を抽出し、これらを特定既存単独処理浄化槽に判定していない主な理由が把握・整理されました。(表8)
※「114事例の抽出」とは、調査対象とした12都道府県、22市町村から、令和元年度から令和3年度までの間で、2か年以上にわたって、浄化槽本体が破損又は変形、漏水している状態にある単独処理浄化槽を1自治体当たり最大8事例抽出したものです。
表8 抽出114事例について特定既存単独処理浄化槽に判定していない主な理由
No. | 理由 | 件数 |
1 | 特定既存単独処理浄化槽を判定するノウハウがない | 18自治体・61事例 |
2 | 特定既存単独処理浄化槽の判定基準やマニュアル等が未作成 | 16自治体・60事例 |
3 | 周辺環境への影響が生じていない | 13自治体・47事例 |
4 | 人員不足 | 12自治体・35事例 |
5 | 浄化槽管理者に自主的な改善の意思がある | 8自治体・16事例 |
(注)
1.総務省の調査結果による。
2.一つの事例が複数の理由に該当する場合がある。
一方、「表3」で、令和2、3年度に特定既存単独処理浄化槽の判定・措置実績がある鹿児島県においては、独自に判定フローを作成しており、浄化槽本体に著しい漏水が発生しているものは、この一点をもって特定既存単独処理浄化槽に判定することとしており、漏水が生じていれば、この状態自体をもって地下水等の周辺環境に悪影響を及ぼしていると判断しているとしました。
また、浄化槽本体に著しい破損がみられるものは、併せて周辺環境への影響を確認することとしており、周辺環境への影響の判断基準として、放流水の水質(BOD汚濁負荷量)の基準値を設定する等、指針にはない定量的な基準を独自に設けていました。
所見
総務省の所見では、環境省は、11条検査受検単独処理浄化槽について、都道府県等における特定既存単独処理浄化槽の的確な判定を推進する観点から、以下の措置を講ずる必要があります。
1.生活環境の保全等に重大な支障が生じるおそれのある単独処理浄化槽が特定既存単独処理浄化槽に的確に判定されるよう、次の通り、「特定既存単独処理浄化槽に対する措置に関する指針」で示されている判定の考え方を見直すこと。
①浄化槽本体が漏水している状態にある単独処理浄化槽について、漏水している状態にあることをもって特定既存単独処理浄化槽に判定すること。
これに当たり、都道府県等又は指定検査機関が「浄化槽内の水位の低下」等について測定可能な定量的な基準を設けること。
②浄化槽本体が著しく破損又は変形している状態にある単独処理浄化槽について、「周辺環境への影響」に関する項目を併用して特定既存単独処理浄化槽に的確に判断すること。
これに当たり、都道府県等又は指定検査機関が「著しい破損又は変形の状態」や「放流水の水質」等について測定可能な定量的な基準を設けること。
2.指定検査機関が作成する11条検査結果報告書には、特定既存単独処理浄化槽に該当するおそれの有無を明記する等、その結果が都道府県等における特定既存単独処理浄化槽の判定に適切に活用されるための措置を講ずること。
まとめ
総務省行政評価局の「浄化槽行政に関する調査 結果報告書」によれば、環境省が令和2年3月に定めた「特定既存単独処理浄化槽に対する措置に関する指針」の基準が抽象的で、数値を具体的に示してほしいとの声が多くの都道府県等で見られました。
そのため、総務省は、環境省に対し、指針に定量的な基準を設けるように勧告しました。
報道によると、環境省は、「勧告を踏まえて検討し、必要な措置を講じたい」としています。
令和6年2月、総務省行政評価局による「浄化槽行政に関する調査 結果報告書」を参照し、調査の内容をご説明しました。
都道府県、保健所設置市および特別区において、その地域の方々に特定既存単独処理浄化槽の判定をどこまで強制できるのか、その判断は難しいと思います。
単独処理浄化槽を合併処理浄化槽に入れ替えるためには費用がかかります。
言われてすぐに対応できる人ばかりではありません。
浄化槽管理者の理解を得て、単独処理浄化槽を合併処理浄化槽に転換していくため、環境省が、その取り組みの中で、どのような方策を考えてくれるのかが大切と思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。