浄化槽の地下浸透放流に関する基準は、各都道府県、市町村で異なります。
昭和55年の建設省の告示を基に各都道府県、市町村が、その地域に合った基準を考えたため、異なると思われます。
はじめに
浄化槽の放流水処理方法につきましては、ブログ「合併処理浄化槽設置時の放流水の処理について」でもご説明しましたが、その放流水の処理方法の一つが「地下浸透放流」です。
許可が取れない等のため、水路や道路側溝への放流が困難な場合等、処理方法の一つとして「地下浸透放流」があげられます。
地下浸透放流については、昭和55年7月14日の建設省告示第1292号第5の2から7にある記載に基づき、各都道府県、そして、浄化槽法に係る事務権限を都道府県から移譲された各市町村で決めています。
建設省の告示に基づき各々が考え、その地域に合った仕様を作り出していますので、都道府県によっても、市町村によっても地下浸透放流の取扱基準は異なります。
まずは、基準となる建設省の告示をご説明します。
し尿浄化槽及び合併処理浄化槽の構造方法を定める件(建設省告示第1292号)
「昭和55年7月14日の建設省告示第1292号第5の2から7」の記載は、以下の通りです。
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第5
二 地下浸透部分は地下水位が地表面(地質が不浸透性の場合においては、トレンチの底面)から1.5m以上深い地域に、かつ、井戸その他の水源からの水平距離が30m以上の位置に設けること。
三 処理対象人員一人あたりの地下浸透部分の面積は、次の表に掲げる数値以上とすること。ただし、土壌の浸透時間は、次号に定める試験方法により測定するものとする。
土壌の浸透時間(分) | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 10 | 15 | 30 | 45 | 60 |
1人当たりの浸透面積(㎡) | 1.5 | 2.0 | 2.5 | 3.0 | 3.5 | 7.0 | 9.0 | 11.0 | 15.0 | 16.5 |
四 土壌の浸透時間試験方法は、次の(一)から(三)までに定める方法によること。
(一) 3ヶ所ないし5ヶ所に設置した試験孔においてそれぞれ測定した浸透時間の平均値を浸透処理予定地の浸透時間とすること。
(二) 試験孔は、浸透予定地又はその近隣地において、径を30㎝、深さを散水管の深さにおおむね15㎝を加算したもの(地盤より40㎝未満の場合においては、40㎝)とした円筒形の下部に厚さがおおむね5㎝の砂利を敷いたものとすること。
(三) 浸透速度の測定は、降雨時を避けて次の順序に従い行うものとすること。
(イ) 砂利上25㎝の深さになるように清水を注水し、水深が10㎝下がった時は砂利上おおむね25㎝の深さにもどるまで注水し、水深の変動と時間とをフックゲージにより測定し、浸透水量が一定化するまで繰り返すこと。
(ロ) 浸透水量が一定化してから20分経過後水位を砂利上25㎝にもどし、土質が粘質の場合にあっては10㎜、その他の場合にあっては30㎜水が降下するに要する時間を測定し、1分間当たりの浸透水深(単位㎜)で25㎜を除した数値を浸透時間とすること。
五 トレンチは、均等に散水することができる構造とし、幅を50㎝以上70㎝以下、深さを散水管の深さに15㎝以上を加算したものとし、砂利又は砂で埋めること。
六 トレンチは、長さ20m以下とし、散水管相互の間隔を2m以上とすること。
七 トレンチは、泥、ごみ、雨水等の侵入を防ぐため地表面を厚さおおむね15㎝付き固めた土で覆うこと。
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※四(三)(ロ)に従い、1分当たりの浸透水深を計算します。
【浸透時間(分)】=【25(㎜)】÷【1分当たりの浸透水深(㎜/分)】
ここで求めた【浸透時間(分)】の3ヶ所ないし5ヶ所の平均を算出し、三の表より「1人当たりの浸透面積(㎡/人)」を選びます。
そしてトレンチの浸透面積を計算します。
【浸透面積(㎡)】=【1人当たりの浸透面積(㎡/人)】×【人槽】
地下浸透放流の取り扱い
地下浸透放流については、昭和55年7月14日の建設省告示第1292号第5の2から7にある記載に基づき、各都道府県、そして、浄化槽法に係る事務権限を都道府県から移譲された各市町村で決めています。
建設省の告示に基づき各々が考え、その地域に合った仕様を作り出していますので、都道府県によっても、市町村によっても地下浸透放流の取扱基準は異なります。
地下水位が地表面より近い場所にある場合は、地下浸透は望めません。
トレンチを作成するため掘削して、すぐに水が湧いてくる場所に地下浸透放流はできないということです。
その場合、地下浸透放流を認める地下水位を1.5m以深とするのか、2.0m以深とするのか、2.5m以深とするのか、その取扱基準は都道府県、市町村で異なります。
また、トレンチの浸透水の隣地への影響を考えれば、隣地から何m離すのか。
1mあれば良いのか、2mあれば良いのか、2.5mあれば良いのか、3m必要なのか、5m必要なのか、それも、各都道府県、市町村で異なります。
どの範囲を浸透面積とするのかを記載していない都道府県、市町村もあります。
トレンチの散水管相互の間隔を2m以上とすることから、散水管及び散水管の両端から1m隔てた直線に囲まれた面積の合計とするところが多いかと思われます。
また、地下浸透放流への考え方も、都道府県、市町村で異なります。
北海道ニセコ町ホームページの「浄化槽を設置する場合について」には、以下の記述があります。
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浄化槽の処理水については、原則、敷地内での地下浸透方式でお願いします。
地下浸透方式での処理が困難な場合は、道路側溝や河川等に支障なく放流できるか、また、勾配不足で逆流する事がないか等を、放流先の管理者と事前協議が必要です。
また、放流予定の側溝に農業用水が流れている場合は、その管理者等との協議も必要です。
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しかし、沖縄県の「浄化槽取扱要綱(令和5年3月30日改正 令和5年6月1日施行)」の「放流先」という項目には、以下のような記述があります。
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放流先の地下浸透放流は、地下水の汚染につながり、生活環境の保全及び公衆衛生上の支障を生じるおそれがあることから、原則として禁止する。
ただし、地下浸透放流以外の放流方法が全くない場合で、別紙〈公共用水域以外への放流方法〉の「地下浸透放流」を行うときは、この限りではない。
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北海道ニセコ町では、「原則、敷地内での地下浸透方式でお願いします。」とありますが、沖縄県では、「地下浸透放流は、原則として禁止する。」とあります。
その地域の地質や産業等が影響する部分は、大きいと思われます。
地下浸透放流装置(トレンチ)構造図例
以下に地下浸透装置(トレンチ)構造図の一般的な例を示します。
「平面図」
「断面図」
これは、地下浸透装置の一例であり、都道府県、市町村で異なります。
地下浸透による井戸水への影響を考え、「地下浸透部分は、井戸その他の水源からの水平距離が30m以上の位置に設けること」のような記述は、どの都道府県、市町村にも見受けられます。
しかし、地下浸透放流を認める地下水位の深さについては、その地域の特性等もありますので、都道府県、市町村によっては1.5mではありません。
「トレンチの幅は50㎝以上70㎝以下、深さは散水管の深さに15㎝以上を加算したもの」とありますが、トレンチの幅や深さ等の規定、及びトレンチの隣地からの距離も、都道府県、市町村によって異なります。
「トレンチは、長さは20m以下とし、散水管相互の間隔を2m以上とすること」のような記述は、どの都道府県、市町村にも見受けられ、浸透面積は、散水管及び散水管の両端から1m隔てた直線に囲まれた面積の合計としているところが多いかと思われます。
では、都道府県、市町村の違いをみていきましょう。
北海道
「北海道浄化槽事務ガイドブック(平成21年6月(令和4年1月改訂))」33ページにある「第5 設置場所その他の留意事項 4 地下浸透放流」に記載されている内容には、以下の項目があります。
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◦地下水位1.5m以深であること。
◦トレンチは、隣地から5m以上離すことを原則とし、隣地の承諾を得た場合でも、1m以上離すこと。
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北海道では、地下水位は1.5m以深ですが、トレンチは原則隣地から5m以上(隣地の承諾を得た場合でも1m)離すよう規定されています。
千葉県
「放流先がない場合の浄化槽放流水処理に係るガイドライン」に記載されている内容には、以下の項目があります。
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◦地下水位は、地盤面下2mより低いこと。
◦土壌浸透装置の端又は浸透ますから周囲の建築物等までの水平距離は次のとおりとする。
・建築物まで1m以上
・隣地境界まで1m以上
◦検水井 土壌浸透装置の水質浄化能力を確認するための井戸をいう。
・トレンチの底面から約1mの深さの浸透水を採取できる構造とすること。
・装置の中央部付近に1箇所以上設けること。
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千葉県では、地下水位は2m以深になっています。
トレンチの隣地及び建築物からの離れは、トレンチではなく、土壌浸透装置の端から1m以上離すことになっています。
また、トレンチの各散水管の末端には、「水位点検口」を設け、散水管内の水位の状態を目視でき、滞留水がある場合には、それを採取できる構造になっていますが、千葉県では、トレンチ中央部付近に「検水井」を設け、土壌浸透装置の水質浄化能力を確認できるようにしています。
埼玉県
「埼玉県浄化槽放流水地下浸透関係技術基準」に記載されている内容には、以下の項目があります。
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◦地下水位は、年間平均で地表面下約2m以深にあること。
◦隣地境界及び建築物までの距離は、散水管及び散水管の両端からそれぞれ2.5m以上を確保すること。
◦トレンチ
・トレンチは、幅50㎝から70㎝、深さ75㎝程度に掘削した溝を作り、溝の底部は砂を15㎝程度埋め戻し、その中央部に散水管を配置し、散水管の周囲は目詰まりを起こさせないように多孔質の礫または砕石で埋め戻し、その上部は砂で覆い、さらにその上部は通気性の良い土壌で被覆すること。
◦検水井
・土壌浸透装置の水質浄化効果を見るために、装置の末端に設置する。検水井はトレンチの底面から約1mの深さの土壌浸透水を採取できる構造とすること。
◦総必要面積は、散水管及び散水管の両端からそれぞれ1m隔てた線で囲まれた区域とする。
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埼玉県では、地下水位は約2m以深になっています。
トレンチの隣地及び建築物からの距離は、トレンチではなく散水管の端から2.5m以上となっています。
また、トレンチの構造が幅や深さ、埋め戻しの仕方まで細かく規定されています。
「土壌浸透装置の配置の例」と「トレンチ標準断面図の例」が添付してありました。
千葉県と同じく、「検水井」の設置も規定されています。
そして、「総必要面積が、散水管及び散水管の両端からそれぞれ1m隔てた線で囲まれた区域とする」という規定も記載されていました。
飯能市(埼玉県)
「飯能市高度処理型合併処理浄化槽放流水地下浸透関係技術基準」に記載されている内容には、以下の項目があります。
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◦地下水位は、年間平均で地表面下約2.5m以深にあること。
◦隣地境界及び建築物までの距離は、散水管からそれぞれ2m以上を確保すること。
◦トレンチ
・トレンチは、幅50㎝、深さ100㎝程度に掘削した溝を作り、溝の底部は洗い砂を20㎝程度埋め戻し、その中央部に散水管を配置し、散水管の周囲は目詰まりを起こさせないように多孔質の礫または砕石で埋め戻し、周囲を透水シート等で覆い、さらに上部は不透水膜で覆うこと。
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飯能市では、地下水位は約2.5m以深になっています。
トレンチの隣地及び建築物からの距離は、トレンチではなく散水管から2m以上となっています。
飯能市でも、トレンチの構造が幅や深さ、埋め戻しの仕方まで細かく規定されています。
トレンチの周囲を透水シート等で覆い、礫または砕石が流失しないようになっています。
そして、上部は不浸透膜で覆うことで、雨水等がトレンチ内に入り込みにくくしています。
「地下浸透装置平面図」と「地下浸透装置断面図」が添付してありました。
長野市(長野県)
「長野市浄化槽放流水の地下浸透に関する指導要綱」に記載されている内容には、以下の項目があります。
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◦地下水位は地表面から2m以深にあること。
◦散水管は、隣地との境界線から2m以上離して設置すること。
◦トレンチは、幅50㎝から70㎝程度まで及び深さ70㎝程度に掘削し、中心部に散水管を配し、目詰まりを生じないように埋め戻すこと。
◦検水井は、浄化槽に付随する地下浸透装置について設け、浸透面積400㎡以下については1か所、400㎡を超えるごとに1か所ずつとること。
又、当該検水井は、トレンチの中心部から流入口寄りに設け、2か所以上の場合は、浸透区域内に均等に配置し、トレンチの底面から70㎝から100㎝までの深さの浸透水を随時採取できる構造とすること。
◦浸透面積は、放流水の地下浸透処理に直接必要となる面積であり、散水管及び散水管の両端から1m隔てた直線に囲まれた面積の合計とする。
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長野市では、地下水位は2m以深になっています。
トレンチの隣地からの距離は、トレンチではなく散水管から2m以上となっています。
トレンチの幅は50㎝から70㎝程度になっていますが、深さは70㎝程度と規定されています。
千葉県、埼玉県と同じく「検水井」の規定がありましたが、その構造、設置位置まで細かく記載されていました。
そして、「浸透面積は、散水管及び散水管の両端から1m隔てた直線で囲まれた面積の合計とする」という規定も記載されていました。
三重県
「放流先のない場合の放流水の処理方法(令和4年5月1日改定)」に記載されている内容には、以下の項目があります。
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◦地下水位が地表面から1.5m以上深い地域に設けること。
◦地下浸透部分は、隣地境界から水平距離3m以内にの位置(ただし、地下浸透部分から水平距離3m以内の住民及び土地の利用者から承諾を得た場合は、1m以内の位置)に設けないこと。
◦散水管はトレンチに埋設し、トレンチ内に均等に散水できる構造とすること。
トレンチの幅は50㎝以上90㎝以下、深さ60㎝以上とし、トレンチの底部には厚さ15㎝以上の砂をしき、その上部に厚さ10㎝以上の砂利で囲った散水管を敷設し砂で埋戻すこと。
砂で埋め戻した上部は厚さ5㎝以上の覆土を行うこと。
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三重県では、地下水位は1.5m以深になっています。
トレンチの隣地からの距離は、トレンチではなく、「地下浸透部分からの水平距離」との表記で3m以内(隣地の住民及び土地の利用者から承諾を得た場合は1m以内)には設けないとの規定でした。
トレンチの構造も、幅は50㎝以上90㎝以下、深さは60㎝以上とし、散水管を砂利で囲み、その底部と上部を砂で埋め戻すというものでした。
まとめ
浄化槽の放流水処理方法につきましては、ブログ「合併処理浄化槽設置時の放流水の処理について」でもご説明しましたが、その放流水の処理方法の一つが「地下浸透放流」です。
許可が取れない等のため、水路や道路側溝への放流が困難な場合等、処理方法の一つとして「地下浸透放流」があげられます。
地下浸透放流については、昭和55年7月14日の建設省告示第1292号第5の2から7にある記載に基づき、各都道府県、そして、浄化槽法に係る事務権限を都道府県から移譲された各市町村で決めています。
建設省の告示に基づき各々が考え、その地域に合った仕様を作り出していますので、都道府県によっても、市町村によっても地下浸透放流の取扱基準は異なります。
地下浸透放流の基準となる建設省の告示と、それ基に決められた都道府県、市町村の地下浸透放流に関する基準の違いをご説明しました。
浄化槽を設置する予定のある方は、放流水を水路や道路側溝に接続するのか、地下浸透放流するのか、お住いの市町村で考え方が異なりますので、設置業者さんの話をよく聞き、必要であればその地域の役所に相談してみましょう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。