令和5年度 公共浄化槽の経営のあり方

浄化槽
博士
博士

環境省は、令和5年3月「公共浄化槽整備・運営マニュアル」をまとめました。
これは、市町村における浄化槽整備に対するマニュアルになります。

助手
助手

市町村が、公共浄化槽を整備・運営する時の問題点から、対策手順を整理したものです。
今回は、その中から、公共浄化槽の経営のあり方についてご説明します。

はじめに

市町村は、環境省の作成したマニュアルに基づき、その市町村で行っている「浄化槽設置整備事業(個人設置型)」や「公共浄化槽等整備推進事業(市町村設置型)」において、循環型社会形成推進交付金(浄化槽分)を受け取り、その地域の浄化槽整備に活用します。

令和5年3月付、環境省による「公共浄化槽整備・運営マニュアルについて」を参照し、国が市町村に対してマニュアル化した「公共浄化槽の整備」の中から、公共浄化槽の経営のあり方についてご説明します。

公共浄化槽の経営のあり方

公共浄化槽事業は、公営企業として位置付けられ、独立採算の原則が適用されています。

そのため、PFI等の民間活用やデジタル技術等の導入による事業費用の縮減を図るとともに、一般会計の繰入れに頼らずに、事業費用を賄える使用料を設定することが必要となります。

もっとも、市町村は水環境の保全や生活排水処理施設整備の役割も担っているため、市町村の行政責任や他の汚水処理事業等との関係等の全体を考慮した事業経営計画の検討が必要です。

※「公営企業」とは、地方公共団体が経営する企業のことであり、一定の事業(地方財政法施行令第46条に列挙される13事業)の経理は、特別会計を設けて行わなければならないとされています。
公共浄化槽事業についても、特別会計の設置義務と独立採算が原則とされており、地方公営企業法の全部又は一部を適用することができます。

※「地方財政法施行令第46条に列挙されている13事業」とは、下記の通りです。
①水道事業
②工事用水事業
③交通事業
④電気事業
⑤ガス事業
⑥簡易水道事業
⑦港湾整備事業(埋立事業並びに荷役機械、上屋、倉庫、貯木場及び船舶の離着岸を補助するための船舶を使用させる事業に限る)
⑧病院事業
⑨市場事業
⑩と畜場事業
⑪観光施設事業
⑫宅地造成事業
⑬公共下水道事業

公共浄化槽事業による整備促進と民間活用導入による事業費用の縮減

浄化槽による汚水処理の占める割合が高い市町村においては、従来の個人設置型浄化槽から公共浄化槽への転換により、整備促進と適正な維持管理の確保を図ると共に、さらにPFI等の民間活用を導入することによって、設置費や維持管理費及び自治体職員の人件費等の事業費用を縮減していくことが望まれます。

適正な使用料の設定

公共浄化槽事業における使用料は、自治体職員の人件費を除いた維持管理費用における実経費を賄うことが可能となる金額(経費回収率100%)とすることが基本となります。
公共浄化槽事業全体の効率化と民間活用による事業コストの縮減を図ることにより、現状の個人設置型浄化槽における維持管理費用よりは低額となる使用料を設定することとして、使用者からの理解と協力を得ることが重要です。

長寿命化対策と将来更新費用の積立

維持管理費用を賄うだけでなく、既設浄化槽施設における長寿命化対策により、共用期間の延伸を図ることや、将来における更新費用等を確保するためには、経費回収率を引き上げるとともに基金を積み上げていくことが望ましいです。

※「長寿命化対策」につきましては、ブログ「令和4年度浄化槽長寿命化計画に基づく浄化槽の改築事業」の中で、説明しています。

汚水処理事業全体を見据えた事業経営

汚水処理事業の大部分を下水道で実施している市町村であって、下水道事業における経費回収が十分に可能である場合には、下水道区域外の残りの汚水処理について、公共浄化槽事業により、浄化槽を整備して汚水処理施設の全体概成を図るとともに、下水道と浄化槽を合わせた汚水処理事業全体の事業経営を目指すことも想定されます。
下水道と浄化槽を合わせた汚水処理事業全体の事業経営とする場合、両事業ともに公平な公共サービスを提供することが基本となります。

公営企業の原則と市町村の役割を踏まえた持続的な経営

地方公営企業の経営は、一般会計で負担する繰出基準で認められた経費を除き、経営に伴う収入(料金)をもって充てる独立採算が原則とされます。
また、公共浄化槽事業においても、地方公営企業法を適用して、事業経営の状況を明確に把握することが重要です。
その上で、市町村には、公共用水域の水質汚濁防止と生活排水処理施設整備の役割もあるため、将来にわたる財政状況と汚水処理における市町村の役割等を踏まえながら、公共浄化槽の持続的な経営のあり方を考えていくことが必要となります。

持続的な運営に関する事業収支モデルの検討

環境省は、公共浄化槽事業の持続的な運営が可能となる事業・運営計画を構築するため、維持管理費及び使用料等の全国平均等に基づき、公共浄化槽の事業収支モデルの検討を行い、市町村直営とPFIによる事業方式の比較や維持管理費等を踏まえた適正な公共浄化槽の使用料の設定について検討を行いました。

浄化槽使用料

「公共浄化槽の経営のあり方」の中の「適正な使用料の設定」のために、以下の各ケースにおける使用料を設定して、運営、PFIの各方式における事業収支計画を試算しました。

①全国平均使用料

公共浄化槽における全国平均値である使用料とします。

②維持管理費回収使用料

維持管理費の内、保守点検費、清掃料、法定検査費及び機器補修費を回収する使用料とします。
但し、機器補修費は、国庫交付金分を除いた市町村負担分とします。

③収益的収支100%回収使用料

維持管理費及び自治体職員人件費を含めた収益的収支100%を回収する使用料とします。

④事業費全体回収使用料

国庫交付金及び起債元利償還金以外の全事業費について、起債の償還が完了する事業期間40年間にて回収する使用料とします。

※「起債元利償還金」とは、地方公共団体が借り入れた地方債(または起債)の元利と利息を返済するために必要な費用のことです。
地方債(地方公共団体が発行する債券)を通じて資金を借り入れ、その借入金を段階的に(数年から数十年にわたって)償還するために支払う金額です。

※「なぜ、地方債で借り入れを行うのでしょうか」
新しい施設を建てる場合、多額の費用がかかります。
その施設は建てた後も数十年にわたって使用されます。
地方公共団体の予算は、基本的に一年ごとに次年度の歳入と歳出を見積もり、その見積もり通りに事業を行います。
しかし、施設の建設に予算を費やすことで、他の必要な事業がカットされたり、先延ばしにされたりすることがあります。
一方で、施設が建てられた後に生まれた世代では、施設を利用することができますが、建設時の世代には負担が生じます。
このような世代間の不公平を解消するため、地方債を借りて、借入金を段階的に償還していく仕組みがあります。

公共浄化槽事業における事業収支

各検討ケースの使用料と自治体繰入額(40年間総額)を表に示します。

「事業収支試算結果による使用料と自治体繰入額(40年間総額)」

検討ケース人槽別等単位自治体直営方式PFI方式PFI縮減率
①全国平均使用料5人槽円/月・基3,4303,339
7人槽円/月・基3,9873,8790.97
10人槽円/月・基4,8314,698
自治体繰入額
(40年間総額)
百万円1,1719050.77
②維持管理費回収5人槽円/月・基4,3694,251
使用料7人槽円/月・基5,0014,8640.97
10人槽円/月・基5,9875,820
※機器補修費の
国庫交付金除く
自治体繰入額
(40年間総額)
百万円7665110.67
③収益的収支100%5人槽円/月・基5,3994,732
回収使用料7人槽円/月・基6,1555,3940.88
10人槽円/月・基7,3436,436
※PFI方式の
料金徴収費回収含む
自治体繰入額
(40年間総額)
百万円3163020.96
④事業費全体回収5人槽円/月・基5,6134,962
使用料7人槽円/月・基6,3995,6570.88
(回収期間40年間)10人槽円/月・基7,6346,748
※元利償還金の
負担分除く
自治体繰入額
(40年間総額)
百万円2222010.90

※「PFI縮減率」とは、PFI事業(民間資金等活用事業)が従来の方式と比べて、総事業費をどれだけ削減できるかを示す割合です。

※「自治体繰入額」とは、自治体が国庫納付金や地方交付税等を受け取った際に、そのうち一定額を国庫に返還することを義務付けられた制度です。
「自治体繰入額」は、自治体の財政状況によって異なります。
「自治体繰入額」が多い場合、自治体の財政状況が厳しいことを示しています。

本検討は、全国平均値等に基づき、維持管理費及び使用料等を設定して、公共浄化槽の事業収支モデルを検討したものです。

事業収支モデルの条件設定等については、様々な要素が想定されるため、各自治体においては、地域の実情に応じた適切な検討が必要となります。

持続的な経営に向けた自治体施策事例

公共浄化槽の持続的な経営を実現するためには、事業コストを縮減すること及び適正な使用料により十分な経費回収率を確保することが必要です。

また、将来的な機器補修費・更新費用の確保等を図ることが望ましいです。

環境省は、これらの課題について、有効な施策を実施して効果を上げている自治体の事例を示しました。

事業費(設置費・維持管理費・人件費等)の縮減

①公共浄化槽事業による維持管理費の縮減

個人設置型浄化槽と公共浄化槽(市町村設置型)における保守点検費と清掃費の比較を行ったところ、公共浄化槽(市町村設置型)の場合、年間維持管理費用は、個人設置型よりも5人槽と10人槽については約2割、7人槽については約1割の縮減となっています。
維持管理と係わる民間事業者においては、公共浄化槽の場合、保守点検や清掃の業務は市町村との契約になるため、まとまった浄化槽基数による計画的な管理作業が可能となります。
また、個人設置型の場合には必要であった個々の契約事務が不要となるため、公共浄化槽とすることにより、住民(個人)が管理する場合よりも、維持管理費用を縮減していくことが可能となると推察されます。

②PFI方式の導入による事業費縮減

富田林市においては、PFI方式を導入し、民間活用による事業費(設置費・維持管理費)と職員人件費の縮減により、財政負担額の縮減を実現しています。
実績VFM算定結果によると、可能性調査において期待されたVFMは39.8%であったが、実績のVFMは45.4%であったと推定されます。

※「VFM」とは、「Value for Money」の略で、PFI事業において、支払いに対して最も価値の高いサービスを供給するという考えのことです。
「VFM算定結果」には、PFI事業において、落札者の提案内容から算出される「実際のVFM」と、PFI導入可能性の検討段階で計算する「シュミレーションのVFM」という二種類があります。
「シュミレーションのVFM」は、PFI事業として行うかどうかを判断するための予測の計算で、特定事業の選定時に公表されます。
一方、「実際のVFM」は、落札者の提案内容から算出されます。
高いVFMを達成するためには、民間のノウハウを活かしやすい環境条件を整えることが重要です。

③他事業との連携等による事業費の縮減

他事業との連携により、公共浄化槽事業における事業費の縮減を図っている事例があります。

・公共下水道事業等とともに、料金徴収業務を民間業者等へ委託して、経費を削減します。

企業会計の適用とともに、管理事務等を他の汚水処理事業と集約化して合理化を図ります。

※「公営企業会計」につきましては、ブログ「令和5年度公共浄化槽整備・運営について」の中で、ご説明しています。

まとめ

市町村は、環境省の作成したマニュアルに基づき、その市町村で行っている「浄化槽設置整備事業(個人設置型)」や「公共浄化槽等整備推進事業(市町村設置型)」において、循環型社会形成推進交付金(浄化槽分)を受け取り、その地域の浄化槽整備に活用します。

令和5年3月付、環境省による「公共浄化槽整備・運営マニュアルについて」を参照し、国が市町村に対してマニュアル化した「公共浄化槽の整備」の中から、公共浄化槽の経営のあり方についてご説明しました。

皆さんが、単独処理浄化槽を合併処理浄化槽に転換する際の助成金の窓口は、あくまでも市町村です。
住んでいる地域によって行っている事業が異なる場合もありますので、お住いの地域の役所へご相談ください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

スポンサーリンク

タイトルとURLをコピーしました